今日は、わたしが自分のカウンセリングに取り入れている臨床動作法についてごご紹介します。
心理療法のひとつなんですが、いつでも、どこでも、自分ひとりでできるストレスマネジメント法としても使えるんです。
実際に、ご自分で肩や腕などを動かしてやる方法で、動きもシンプルなので、すぐ覚えられます。
ここでは、臨床動作法の成立、基本的な考え方、実際のやり方をご案内します。
これを読んで、あなたの毎日に活かしていただけると幸いです。
臨床動作法とは、日本発の心理療法のひとつ
臨床動作法は、九州大学名誉教授の成瀬 悟策先生によって考案されました。
もともとは脳性まひのお子さんのためのセラピーとして生まれたのですが、今では、赤ちゃんから高齢者の方まで幅広く行われています。
学校や病院、施設などでも幅広く実践されるようになって、うつ状態、不安神経症、不定愁訴、気管支喘息、慢性緊張、アトピー性皮膚炎などなど、さまざまな症状の改善に効果があるという事例が報告されています。
臨床動作法の基本的な考え方
臨床動作法では「動作」つまり、身体の動きを扱っていきます。
わたし達は、生きている限り、普段の生活のなかで、朝起きてから寝るまで、ずっと「動作」をし続けています。
顔を洗う、ご飯を食べる、電車に乗る・・・すべて「動作」です。
臨床動作法では、この「動作」をわたし達の生き方が現れているものとして考えます。
そして、身体と心は一体で、心に起こっていることは、同時に身体にも起こっていると考えます。その逆も同じ。
なので、こころが何か不調を感じる時には、当然、何らかの不調が身体の「動作」にも現れているということです。
例えば、何かでびっくりすると、肩や首をすくめたり、思わず飛び上がったりしますよね。
こころがびっくりしたことが、同時に身体の「動作」として現れているのです。
こういう一時的な反応は分かりやすいですが、
例えば、仕事と家庭の両立が難しいといったような、日常的・持続的なストレスに対しても、心が感じるストレスが、身体の動作として起こっている反応もあるわけです。
そのあたりのことを、成瀬先生の著作「リラクセーション」(ブルーバックス)から引用してみます。とても分かりやすいので。
ストレスに直面し、それに対応し、克服しようとする本人自身の努力で成り立っているのが私たちの日常生活です。すなわち私たちは、こころのなかで感じる「緊張の感じ」を中心にしたさまざまなストレスをさまざまな仕方で体験し、それに対応しながらこころの安定をはかっているのです。
ふだんの生活で私たちは、ストレスの種類や程度に応じて、そのつどからだの緊張や構え、態度などを変化させながら、それなりに対応・処理して、ストレスを変性・解消しています。ところが、この処理は必ずしもうまくできるとは限りません。
自分でも気付かないまま緊張していることがあります
日常的なストレスに対しては、からだは、首や肩、腰など、身体のあちこちを緊張させることで対処していることが多いものです。
からだには、からだなりの知恵があって、からだが勝手に習慣的に自動的に、そのようにストレスに対応してくれているんです。
本来、緊張というのは、ストレスという危機的な状況から、自分の身を守るための自然な反応でもあるんです。
ですので、ストレス状態が終わってしまえば、もう緊張状態は必要なくなるので、元通りのリラックスした状態に自然に戻ることができれば問題ないのです。
ところが実際は、リラックス状態に戻るのは簡単ではありません。
特に、人間関係などのストレスでは、はっきりとした大きなストレスを感じるより、粉雪が降り積もるような、曖昧で小さなストレスの連続となることが多いですよね。
そうなると自分でも気が付かないうちに、ずっと緊張状態が続いていることになります。
こんな持続的・慢性的なストレスがあるために、からだが緊張していると、「自分が緊張している」ということに気が付かないままのことがよくあります。
緊張していることにさえ、気が付かないのですから、その緊張を緩めるというのは、実際とても難しいことなのです。
緊張が続くと心の動きにも影響が出てきます
からだの緊張が続いていると、やがて、からだは、痛み・重い感じ・突っ張り感・漠然とした違和感など、不快な症状としてサインを送ってきます。
それでも、わたし達は日常の忙しさに忙殺されて、こんな不快な感じくらい、無視してしまうことがほとんど。
すると、不快感にさえも、慣れてしまって、あまり感じられなくなってきます。
でも、緊張状態は無くなったのではなく、ずっと身体のあちこちに溜まり続けているわけです。
そして、この緊張状態は、知らず知らずの間に、わたし達の自由な「動作」身体の動きを制限してしまいます。「なぜか身体を動かしづらい」という状態になっているのです。
同時に「からだ=こころ」ですから、本来は自由なはずの心の動きも制限されてしまい、心理的に落ち込んだり、ネガティブな気持ちばかりが出てきたり、という症状が引き起こされてしまうのです。
心の緊張を身体の緊張をゆるめることで改善する方法
からだの緊張、不調、ストレス=こころの緊張、不調、ストレス
からだの痛みや違和感として現れている緊張を、からだをゆるめる動きを使って解消していき、同時にこころの緊張を取り除いていく。
それが臨床動作法の基本です。
わたし達の生きている身体をゆるめて、からだの動きを良くすることで、こころのストレスを改善し、心理的な問題を改善していこうとするものです。
臨床動作法では実際にどんなことをするの?
臨床動作法の成立と基本的な考え方をご紹介したところで、では実際にどうやるか?
ご紹介していきます。
臨床動作法のセッションでは、肩を挙げる。腕を挙げる。腰を曲げる。など、たくさんの「課題動作」と呼ばれるものがあり、そのなかから、いくつか選んで練習していきます。
そのなかから、最も基本的な「肩上げ」という動作を取り上げます。
ぶっちゃけ、その名の通り、右でも左でも、片方の肩を、真っ直ぐに挙げていくというだけの動作です。
と思えますよね。
実際にやってみましょう!
以下、「肩上げ」のやり方をご案内します。
- 座った状態でも、立った状態でも構いません。両腕は自然に体側に下ろしておきます。
- 最初、両肩をぎゅっと持ち上げて、軽くストンと落とした状態からスタート。
- 右肩でも左肩でも、お好きな方の肩からやります。
そのままの状態で、肩をゆっくり挙げていきます。
なるべく余分な力を抜いて、ゆーっくりと。
肘や首、反対側の肩には力を入れません。
肩だけで、最小限の力だけで、肩を上げていきます。
肩幅を広く保ったまま。 - ゆっくりと肩を上げていき、「もう無理、これ以上上がらない」と思ったら、
その状態を保ったまま、ゆーっくり、息を吸って吐いて、を繰り返します。
ご自分の肩の様子がどういうふうに変わっていくのか、観察してみます。 - 数呼吸したら、肩をそおっと、少しずつ、下ろしていきます。
ここでも、急にストンと下ろすのではなくて、ゆっくり呼吸しながら、最小限の力でゆるゆる下ろしていきます。 - 最後まで肩が下りたら、ひと呼吸。
深く息を吐いて、今の身体全体の様子をまた観察してみます。
左右の肩の感じの違い、肘、指先の血流の感じなどはいかがでしょうか? - 同じことを反対側の肩でも行います。
ポイントは、最初に肩を下ろした時の肩幅を保ったまま、持ち上げること。
途中で肩をすくめてはいけません。
こんなに小さな動きでもちゃんと変化があるはず。
いかがでしたか?
肩を上げていくうちに・・・あれ?
首が傾いてきたり、肘が曲がったり。
意識しないのに、肩以外のところが動いてませんか?
動かしていいのは、肩だけですよ。
すごく力が入ってませんか?
最小限の力ですよ。
頑張るのはやめましょうね。
肩が下りたら、一息。
今の肩の感覚をじっくり味わってみます。
肩が温かくなったり、楽になる感じがしたり、もう片方の肩とは違う感じがすると思います。
たったこれだけの動きですが、実際やってみると、やっぱり変化が感じられますよね。
やってみると、少しずつ肩のあたりが弛んでいく感じ、呼吸が楽になっていく感じ、緊張が消えて温かくなる感じ。
などなど、色々な感覚を味わえるかと思います。
たかが、「肩を上げるだけ」なのに?
やった後には、ほーっとする感じが生まれるかもしれません。
たかが、肩を挙げるだけなのに、です。
こんなふうに、からだの感覚にだけ、注意を向けるようにしていると、頭の中まで穏やかになってきます。脳が休まるんです。
そしてちょっと大げさですが、自分の肩が本当に自分の肩なんだ、と改めて感じられますよね。
自分の意志で、その通りに、ちゃんと体は動いている、動かすことができるんです。
そういう身体を、わたし達は持っているんです。
最初は動かしにくくても、続けるうちに、楽に動けるようになってきます。
そうすると、肩こりもだんだん楽になってきます。
でも、動作が出来るか、出来ないか、はそれほど重要ではありません。
自分の状態を知ること、自分でゆるめようとやってみることが大切。
「緊張に気づくことがリラクセーションのはじまり」です。
自分が今どういう状態なのか?ということに、意識を向けていくことが第一歩です。
そこで自分が緊張していることが分かったら、あとはそれを弛めればいいのです。
もともと自分が入れた緊張なので、自分でちゃんと弛められます。
今の自分の状態さえ、ちゃんと分かっていれば、いくらでも解決策は見つかるはずです。
臨床動作法の最大のメリット
わたしが個人的に臨床動作法の最大のメリットだと思う点は、
一度自分のからだで覚えてしまえば、いつでも、どこでも、自分で出来ること。
例えば、一度セッションでお伝えすると、
その後ご自宅に帰っても、「あ、この感じ」でやれば、セッション後の良い状態をいつでも再現することができます。
でも、「肩だけ」を動かすのって、やってみると意外に難しくなかったですか?
わたしも初めて実際やった時、本当に難しいと思いました!
とにかくシンプルな動きですよね。
自分的には、出来ているつもりでも、指導員の先生に見ていただくと、肘が曲がっていたり、途中で緊張して余計な力が入ってしまったり。
「自分のからだなのに、こんなに簡単なはずなのに、正確に動かせないんだな・・・」
というのが、正直な感想でした。
なので、もっと詳細なやり方を知りたい方は、成瀬先生の著書「リラクセーション」をぜひお読みになってみてください。
この本は、一般の方を対象に、臨床動作法を自分で実践できるように、そのやり方がとても分かりやすく解説されています。難しい専門用語は全くありません。
読むだけでも、ストレスへの見方が変わってくるかもしれません。
臨床動作法は、ありふれた動きに見えますが、
気持ちを込めて、ちゃんとやると、本当に自分のなかからリラックスできて、心の状態も改善されていく方法です。
逆に言えば、「肩を上げる」なんて、ごくありふれた動きすら難しくなってしまうほど、
普通に生活しているだけで、からだが緊張を溜めてしまっているということ。
ですので、ぜひ、緊張をゆるめることを心掛けてみてください!
あなたはご存知でしょうか?
不安、うつ、トラウマ、過緊張など、こころの症状を、、身体を整えながら、身体の側から改善していくことができるということを。
「心の問題には対話によるカウンセリング」というのが一般的な常識ですし、
わたし自身、臨床心理士として、カウンセリングの効果も確かにあると認めています。
けれども、カウンセリングでは、うまく話すことができないと、なかなか先に進めない、ということも事実です。
いくら相手がカウンセラーだったとしても、そんなにすぐに打ち解けて、自分のありのままを話すことなんて難しいですよね。
信頼できるかどうかも分からないし、不安ですよね?
カウンセラーと信頼できる関係を築くまでには、本当に長い時間がかかります。
そのため、カウンセリングで変化を感じる前に、続けられなくなってしまう場合が多いのです。
「カウンセリングがうまくいかない」と困っている方がきっとたくさんいらっしゃるはず。本当はそういう方こそ、心のケアが必要なのに。
そこで、「無理に誰かに話さなくても、心の問題を解決していける方法があればいいな」と、わたしはずっと探していました。
そこで、たどり着いたのが、身体を整え、身体の感覚に向き合うことで、心を整え、心の問題を解決していこうとする方法でのカウンセリングだったのです。
これから自分らしく生きるために、こころ、からだをケアしたい。
でも、カウンセリングでは難しい。
そんなあなたにこそ、かぜのねのカウンセリングをお勧めします。
ぜひ、一度試してみてくださいませんか。