癒しというもの

「楽になること」が怖い? 〜不快な症状がなかなか消えない理由〜

一般的に、ヨガクラスでは、クラスの最後に「シャバアーサナ」通称「屍のポーズ」と呼ばれる完全リラックス状態を目指すポーズを行うことが多いです。
わたしのヨガクラスや、パーソナル・ヨガのセッションでも同様に行っています。

先日、パーソナル・ヨガを受けた後、あるクライエントさんがこのようにつぶやいていらっしゃいました。

肩凝ってるのに、弛めるのが怖い気がする・・・
そのほうが楽になるんだけどね

身体や心の辛い状態から解放されたくて、時間とお金をかけて、わざわざセッションに来て・・・それなのに、怖いなんて?

普通に考えると、ちょっと不思議な感じがしますよね。
けれども、こんなふうに感じる方が実はたくさんいらっしゃいます。
(わたし自身も含めて)

この記事では、こうした人間の不思議な心理?について考えてみたいと思います。
身体や心が緊張しやすいと自覚されている方、整体やセラピーなどいろいろ受けたのに効果がイマイチという方にも参考にしていただけると幸いです。

リラックスしてもいいのに、できない

肩関節や腰回りなど、緊張したり、凝り固まったりしている部分をマッサージしたりして緩めていくと、痛みが取れて楽になりますよね。
こんなことは、どなたでも一度は経験しているはずだと思います。

マッサージという手段に頼らなくても、「筋肉の緊張を緩めると楽になる」ということは、頭ではちゃんと分かっているし、実体験を通して分かっている。

ところが、いざ、身体が緩んで「あ、楽になれる…」という感覚が訪れると、その瞬間にふっと緊張してしまう。

それも、決してリラックスしてはいけない場ではなく、マッサージなどの施術中とか、リラックスしてもいいし、当然そうするべき状況のなかで、自分でもゆっくりしたいのに。

こんなふうになるのは何故かというと。

理由のひとつとして考えられるのは、「緊張しているのが当たり前」になっていることです。

人間は何にでも慣れてしまうから

そうした緊張や凝り、痛みというのは、わたし達にとって、本来は不快な状態のはずです。

ところが、そういう嫌な、不快に感じられる感覚であっても、長い間その感覚を感じ続けていると、それがわたし達にとって当たり前の状態になってしまいます。

当たり前とは、いつものこと、よく知っていること、慣れていること、です。

楽になる、つまり、身体の痛みや凝り、緊張がなくなるということは、長年慣れ親しんだ自分の身体の状態が変化するということです。

それまでの緊張状態や痛みが長く続いていて、強いものであればあるほど、緩んだ楽な状態というのは、自分の「いつもの」感じとは違います。

そのため違和感があるのは自然なことですし、さらには不安になったり、怖いと感じたりするんです。

楽だけど「未知の感覚」が怖い

緊張や痛みから解放された楽な感覚というのは、ずっと不快な状態にさらされていた身体や心にとって、全く新しい未知の感覚になるわけです。

とりわけ、いつも緊張していたり、痛みがあったりするのが当たり前だと、緩んでいるという状態や、痛みがないという感覚そのものが分からなくなっている場合もあります。

そもそもリラックスしている自分をイメージできない…

そうおっしゃる方もいらっしゃいます。

「リラックスする」「楽になる」ということは、一見簡単なことのように思えるかもしれませんが、実際はなかなか難しいものなんです。

ただ単に「肩に入っている緊張を抜いてみる」ということさえ、本当に至難の業。

ちょっとわたし自身の実例をご紹介しますね。

自分の緊張を自分で解く

コロナ禍以前のことになりますが、わたしが臨床動作法の研修会に参加していた時のことです。

臨床動作法とは、心理療法のひとつ。
「身体の緊張=心の緊張」という考え方に基づき、身体の緊張、動き辛さ、痛みを解消していくことで、ストレスや不安など心の症状を改善していくという方法です。
詳細はこちら

身体の緊張感というのは、もともとは自分の身体で作り出したもの。
なので、自分の力で身体を動かして緩めて、緊張を解いていくと、身体の痛みや不調が和らいき、結果として、心もリラックスしていく、という流れです。

この臨床動作法では、「肩上げ」という動作があります。
簡単に言うと、腕をだらん、と下げた状態から、肩の肩甲骨部分を、余分な力を入れずに、真っ直ぐに上げていくという動作です。

コツは、とにかく無駄な肩の緊張を抜くこと、必要最小限の力だけを使うことです。
上手にできるようになると、肩の緊張がほぐれて、肩こりが軽くなり、とても楽になります。

この研修会でも「肩上げ」動作の実習がありました。

セラピスト役の先生に、肩甲骨辺りをサポートしてもらいながら、わたしは肩を上げていったのですが…(心のなかでは「楽勝!」と思いつつ)

順調に肩が上がっていって、首の付け根部分まで来た時。
「ゆるんでいく・・・」そう思った次の瞬間、身体の感覚がよく分からなくなってしまいました。

先生からも、「ほら、もっと力を抜いてみましょう」と言われる始末。

ゆるめれば楽になるのが分かっているし、実際楽になりたいし、先生も穏やかな方なので、緊張する理由は全くありません。

こんな簡単なことなのに、出来ないんだあ…

つくづく実感しました。
ただ、やっていくうちに「あ、なんか違う?」みたいな違和感が生じてきました。

そのうちにやっと、「あ、何か、あったかくなったかも?」と新しい感覚=緩んだ感覚が何となく出てきたな〜。と。
そうなるまでに少なくとも5〜6回はやったでしょうか。

痛いままの状態でいたいの?

こんなふうに、自分にとって慣れ親しんだ緊張感を弛めるのは、最初はよく分からないし、不安や恐怖を感じてしまうことがあるのは自然なことなんです。

この臨床動作法の創始者である成瀬悟策先生も指摘されているのですが、腰痛から心の不調まで、慢性的に続いていた辛さというのは、痛いけれど痛いなりに、不快だけれど不快なりに、わたし達にとっては安定して、バランスが取れた状態なんです。

なので、自分が将来的に本当に楽になることが分かっていても、いざ、不快を手放すチャンスが!と思っても、なかなか、今の安定した状態を手放すことができないのです。

人間は今まで自分が経験したことに基づいて、自分を取り巻く事象を判断しています。
だから自分にとって経験が無いこと(ここでは身体が緩むということ)に対して、潜在的な恐怖を感じます。

どのように判断し対応していけばよいのか、全く分からないためです。
頭では「弛んだ状態が良い」ことは理解していても、その「緩んだ状態」というものを、実際にからだで体験するまでは、自分にとってどういうものか分かりません。

だから、

危険な状態かもしれない、怖い!

という感情が起こってくるのです。

本能的に、人は慣れて安定した状態を求める生物ですから。
どんなに痛みの無い楽な状態に思えても、今までと違う新しい状態、未知の状態を経験することが怖いのです。

どれほど周りの人が「良い」と言っても、今まで経験したことがない、イメージすることもできない、全く分からない状態というのは、どんなことでも、とにかく不安ですよね。

矛盾している気持ちの間で葛藤している

そのため誰にでも「痛みから解放されて楽になりたい」という気持ちの一方で、「痛いけれど、よく知っている今の状態のままでいたい」という気持ちがあります。

矛盾してるようですが、そうなんです。
人間はいつも、ひとつだけの感情しか持たないことなどあり得ません。
そんなに単純な存在ではない。

そして、「楽になりたい」気持ちは表面に出てきて、意識されやすいものです。
一方の「今のままでいたい」という気持ちは潜在的なもので、より無意識に近いところにあることが多く、あまり意識されづらいものです。

わたし達は、常に半分無意識のうちでは、こんなふうに矛盾する2つの気持ちの間で葛藤していることがほとんどです。

だから、「楽になろう」としても、なぜか「楽になれない」という苦しみが生じてしまうのです。

変わりたいけれど変われない

このことは、単に肩コリを緩めることが出来ない、というレベルのことだけではありません。
心の問題でも、全く同じことが起きるんです。

実際のカウンセリング場面には、
「頭では変わりたい、と思っているのに、なかなか実際の行動を変えられない。」
「もうやめよう、と思っても、無意識に今までと同じ行動をしてしまう」
そういう状態に困っている方が来られます。

この状態も、「肩コリを緩めたいけど緩められない」という状態と、心理的なメカニズムは実は同じです。

「変化したい。でも、今のままでいたい。」
その2つの気持ちが葛藤しているんです。

例えば、「ダイエットをしよう!」「ジョギングを始めよう!」「禁煙してやる!」など、確固たる決意をもとに、行動を開始します。

こうした行動はすべて、今ある自分を変化させようとしていること、いわば、未知の状態へのチャレンジです。

日々、新しい行動をしていくと、当然、身体や心に変化が起きてきます。

そうすると、「今までの慣れ親しんだ状態ではなくなってしまう」ことに対して、漠然とした恐怖を感じ、半ば無意識のうちに今の状態を維持したい気持ちがあなたの身体を動かし、ふと気が付くと、冷蔵庫のアイスクリームを探していたり、つい寝坊して走る時間が無くなったり、何かのついでにタバコを買ってしまったり。

やるって決めたのに…

どんなに小さな行動であっても、自分を変えようとすることは、とても大変なことです。
より良い自分になりたい、と願うからこそ、真剣に考えて行動しますよね。

でもその一方で、心の深い部分、つまり無意識では、「変化が怖い。だから変わりたくない」と思っている。
そこで、つい意識で考えていたことと違う行動をとってしまうのです。

わたし自身、自分のために受けたカウンセリングで、いざ何を話していいか、急に全く分からなくなってしまったことがあります。
その時までは、あれこれ、話すことを考えていたのですが。

肩コリ改善でさえ、ひとつのチャレンジ。

たとえ、こんな肩コリや腰痛であったとしても、長年付き合ってきた症状を改善するということは、自分が知らない状態を知るということ、つまり未知の世界へのチャレンジでもあるんです。
(決して大げさなことではなく!)

  • リラックスしたことがない人は、リラックスすることがチャレンジ。
  • 休んだことがない方は、休むことがチャレンジ。
  • 人に頼ったことがない人は、人に頼ることがチャレンジ。

たかが肩コリでさえ、本当に改善しようとするのは、実に難しいもの。

ですから、今までの自分のライフスタイルを変えるような行動や、心の症状、性格や考え方を変えようとするのは、本当に大変な、チャレンジングなことですよね。

緊張しやすい場所=わだかまりのある場所

肩や首など緊張や痛みがある部分は、その人にとって、とてもデリケートな部分と言えます。
意識が向きやすい、敏感な部分だから、こころの動きに影響されて、そこに緊張を溜めやすくなっているのです。

こうした肩コリ、腰痛など身体が痛む部分もそうですが、心でも同じことが言えます。

コンプレックスや劣等感を感じている部分、恥や挫折の記憶、外傷体験など、心のなかでも、ちょっと触れられることさえ避けたくなるような、特にデリケートな部分の状態が変化することは、本当に怖いものです。

「変わりたいけど、変わりたくない」

「楽になりたい」「自分を変えたい」と思って何かやってみても、うまくいかない。
または「やってるのにちっとも変わらない」。

そんな場合は、「変わりたい」気持ちと同時に、心のどこかで「変わりたくない」気持ちがあるのかもしれません。

でも、決してご自分を責めないでください。
それは人間がそういうふうに出来ているからで、あなたの努力が足りないのではありません。

辛いけれども長い間慣れ親しんでバランスの取れている状態から、「楽な」新しい未知の状態になり、そこでまた再びうまくバランスを取れるようになるまでには、それなりの時間がかかります。

楽になるために、辛いなりに安定していたバランスが一時的に崩れるので、かえって、やる前より調子が悪くなったと感じることもあります。
そんな時には、身体も心も、改めてバランスを取ろうと、揺れ動いているのです。

それでも、身体も心も、いつかは「楽な」状態に慣れて、そこでまたバランスを取ることができるようになります。

第一歩を踏み出す勇気

肩コリや腰痛でさえ、本当に楽になるためには、違和感や恐怖、不安があるなかで、勇気を出して「ゆるめる」という新しい行動を取ってみることが必要になってきます。

日常生活のどんな小さなことでも、今までやった事がない、新しい行動を起こすのは、本当に勇気がいることです。

うつ状態、パニック障害、トラウマ、支配的な人間関係など、辛い状態に長い間苦しめられた方ほど、そこから抜け出すこと(つまり未知の状態になること)が不安になってしまい、回復に向けた第一歩を踏み出すために時間がかかってしまうのは、致し方ないことなのです。

第一歩を踏み出したところで、うまくいくか、分かりません。
かえって今より悪い状態になるかもしれない。
そんな恐れもありますよね。

Chisako
Chisako
どうか焦らないでください。

今はどうしても無理であっても、身体にも、心にも、回復するタイミングは必ず訪れます。
それを待ってみることもアリだと思うのです。

この記事では、なかなか不調が改善しない理由のひとつとして、「楽になること」が潜在的に怖いと感じる心理がある!ということについてお伝えしてきました。

他にも、理由として考えられるのが、「楽になること」に対して罪悪感を持ってしまうという心理です。
それについては、また別の記事で考えていきたいと思います。

ABOUT ME
Chisako
臨床心理士・公認心理師・ヨガインストラクター。元社労士。 こころとからだのことで悩んでいるあなたに、わたしの今までの学びがお役に立つと嬉しいです。 根が不器用な自分を認めて、ただシンプルに生きるのが信条。
あなただけに合ったヨガを学んでみませんか?

あなたはご存知でしょうか?

本来のヨガには、身体と心の不調を癒していく効果があります。
欧米では、そんなヨガが医学的治療の一部として、疾患の予防、ストレスケア、メンタルヘルスの向上、リハビリなどにも役立てられています。

一般的に知られていないことですが、ポーズが出来ても、出来なくても、ヨガの効果とは全く関係ありません。

なぜなら、ご自の内面に集中して、意識してからだを動かすこと自体に、あなたを癒し、変えていく力があるのです。
身体を整えることで、脳や心がリラックスし、結果として心身のバランスを取戻していくことができます。

「ヨガをやってみたいと思っていたけど、まさか自分がヨガなんて?」と、
一般的なヨガ教室を敬遠されていたあなたにこそ、一度お勧めしたいのです。

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