ご自分で「トラウマだ」と感じている出来事があって、そのことを思い出すと、激しい感情が湧いてきたり、モヤモヤしたりして、気持ちが不安定になる。
本当は、過去のことを忘れてしまいたいのに忘れられない。
たびたび、そうおっしゃる方にお会いすることがあります。
または、
ハッキリとトラウマになったと感じるほどの大きな出来事は無いけれど、いろいろ、嫌だったこと、辛かった過去がたくさんあった。
なるべく思い出さないようにしているけど、本当はちゃんと、自分の気持ちを整理してみたい。
そうやってモヤモヤしたものを手放すことができれば、楽な気持ちになれるんじゃないかと思う。
そんなふうにおっしゃる方もいらっしゃいます。
周りの方から時間が経てば自然に良くなる、みたいなことを言われることもあるかと思いますが、気休めにしかなりませんよね。
あるいは、辛い過去の記憶やトラウマを本質的なところから癒すには、どうしても過去の出来事と向き合わなくてはいけない、と言われる場合も。
この記事では、トラウマからの回復について、わたし自身が考えていることをお伝えしたいと思います。
辛かった出来事を繰り返し経験することの辛さ
トラウマや、辛い過去の記憶があることで、一番辛いのは、「辛かった過去を繰り返し経験しなくてはいけない」ということでしょう。
その出来事のことを話す時だけではありません。
例えば、出来事の記憶と結びついた物を見る、音を聴く、匂いを嗅いぐ、など、出来事の記憶を呼び起こすようなキッカケがあると、まるで、今まさに過去のトラウマになった出来事を経験しているかのように、身体も心も反応してしまう。
まるでスイッチが入ったかのように。
何もできないような無力感
トラウマの記憶に反応したくない、反応しないように、と思っていても、いざ、記憶が甦ってくると、当時と同じような、強い恐怖や不安を感じてしまいます。
それほど、トラウマの記憶は圧倒するような力を持っているのです。
そうなると、いつしか、わたし達は、自分のなかで起こることなのに、何もできないかのような、無力感を感じるようになったり、「自分が弱いからダメなんだ」と自分を責めたりしてしまいます。
そして、トラウマの記憶そのものを無かったことのように、無理矢理否認することもあります。
しかし、そうしてしまうと、否認すること自体に相当な心のエネルギーを使うことになります。
そのため、他のストレスに過敏に反応したり、心身のバランスを崩したりすることも。
ですので、なるべく早くこうした状況から抜け出していただきたいのです。
言葉でのカウンセリングは難しい
伝統的な、言葉によるカウンセリング・心理療法では、特に過去の出来事を話すことが大切だとされてきました。
当時、どんな感情を持ったのか、身体の反応はどうだったのか、など。
具体的に詳しく当時の様子を話すことが癒しになると考える方も多いものです。
ところが、ここに難しさがあります。
出来事を思い出すだけで、頭が混乱してしまう。
気持ちが揺さぶられて何も手につかなくなる。
身体が固まったようになって、頭が真っ白になる。
こんな状態になるのであれば、正直なところ、カウンセリングは単なる辛い経験となってしまう可能性があります。
なぜなら、これでは、過去の出来事を整理するために思い出しているというのではなくて、過去の出来事に今でも巻き込まれてしまっているからです。
つまり、過去の出来事を、今現実に起きているかのように再体験しているだけです。
実際、わたしがお会いしたクライアントさんのなかには、カウンセラーにいろいろ質問され、話すのが辛くなって、カウンセリングをやめてしまった方もいらっしゃいます。
「せっかく日ごとに少しずつ記憶が薄らいでいたのに、また嫌な記憶を掘り起こしてまで向き合う意味があるの?」
そんな疑問も浮かんできますよね。
向き合うことは、再体験することではない。
トラウマの記憶に向き合うことは、トラウマを思い出して再体験することは違います。
本来、カウンセリングのなかで、トラウマの向き合うとは、過去を再体験することではなく、心のなかを整理するために、過去の出来事を客観的に見つめ直すことです。
具体的には、強い感情に揺さぶられずに、冷静に過去を振り返って、
「今現在のあなたとして、どう感じるか?」
「実際は何が起きていたのか?」
「あなたは本当はどうしたかったのか?」
そういうことを確かめていく作業を行っていくものです。
過去にきちんと向き合うには、実は過去とある一定の距離を置いておく必要があります。
つまり、当時の自分と今現在の自分が区別されている必要があります。
どういうことかというと。
「今・ここ」の自分を取り戻すことが先決
本当は、トラウマとなった出来事は、もうすでに過去のことです。
今現在起きていることではありません。
あなたは今、「現在」に存在しているのですから、本来の今のあなたは、今、実際に起きていることだけを経験すればいいはずです。
もう、過去の出来事を再度経験する必要はないはずです。
過去の出来事は、時間軸では、もう終わったことですから。
それなのに、些細なキッカケで、「当時」に引き戻されてしまう。
それは、心の深い部分では、過去の出来事を「過去」だと、認識できなくなってしまっているということです。
頭では、もう終わったことだから、と分かっているのに、いざスイッチが入ってしまうと、心臓がドキドキしたり、呼吸が苦しくなったり、身体の方が暴走して、当時の感覚を嫌でも再体験してしまう場合もあるかと思います。
ですので、頭ではなく、心の部分でも、「過去」を「過去」と認識し、「現在」と区別できるようにしていく必要があります。
そういうふうに過去の出来事を再体験しないようにするために大切なこと。
それは、「現在」の感覚を取り戻すことです。
「今・ここ」の現在に生きている自分という感覚を、もう一度確かめていく作業です。
「今・ここ」の感覚を取り戻すことができれば、過去、現在、未来という時間の感覚を、ちゃんと持てるようになります。
その時に初めて、傷付いた過去の思いを整理するために、過去と向き合って話すことができます。
まずは、「今・ここ」の自分を取り戻すこと。
それが、トラウマからの回復に役立ちます。
マインドフルネスの考え方を活かして
では、「今・ここ」の感覚を取り戻すためには、どうすればよいのでしょうか?
魔法のような方法ではありませんが、日々の生活のなかで、地道にやっていく方法があります。
「今この瞬間にとどまる」というマインドフルネスの考え方が参考になります。
マインドフルネスとは、簡単に言うと「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向けること。」
今起きている現実の出来事を、良い・悪いの評価をしないで、ありのままに、ただ観ること」とです。
毎日の生活のなかで、スイッチが入り、過去に引きずられそうになったら、その都度、ご自分を「今・ここ」の現実の感覚に引き戻してあげます。
具体的には、過去のことが急に湧いてきたら、今、あなたが現実にやっていることに、とにかく意識を集中してみてください。
日常生活のごくありふれた動作に集中することが有効です。
例えば、洗顔する、歯を磨く、靴を磨く、ご飯を食べるなどの、
「今ここにいる自分がやっていること」だけに意識を向けて、丁寧にやってみてください。

例えば、ケーキを食べているのだったら、お皿の上のケーキの色や形、コーヒーの匂い、ふわふわした甘い食感、フォークを持つ指先の感触など、現実の、今のあなたが感じている感覚だけに注意を向けるようにします。
ただただ、「今、この瞬間やっていること」だけを意識してみます。
そうすると、「今ある自分という感覚」だけを感じることができるようになります。
最初は難しく感じられるかもしれませんが、ほんの少しずつでも、続けていくと、必ずやれるようになります。
特別な才能とか高度なスキルは必要ありません。
地道にやってみるだけです。
もし、うまく集中できなくて、注意が逸れてしまっても大丈夫です。
また集中し直せばいいだけなんです。
やっていくうちに、少しずつ、現在を生きている感覚が戻ってきます。
身体を癒すことでトラウマを癒す
かつての伝統的なセラピーでは、トラウマの心理的な影響を重視していて、生理学的な面にはあまり働きかけをしてきませんでした。
ところが、最近では、トラウマは身体のなかにこそ表れることが分かってきて、身体にアプローチする方法が率先して治療にも取り入れられるようになってきました。
トラウマの記憶は身体の記憶でもある
というのは、トラウマの記憶というものは、「怖い」といった情動的、心理的なものだけではありません。
同時に身体の記憶でもあるんです。
身体も、心も一体となって、かつてトラウマの出来事に遭遇したはずです。
ですので、身体も、身体として、全身の緊張感、過呼吸、ひどい動悸などを経験し、記憶してしまっているのです。
トラウマは、心だけではなく、身体にも深く影響するのです。
そのため、頭だけで考えないようにしよう、忘れることにしよう、と決心していても、トラウマを受けてしまった身体は、その時の過度の緊張状態を記憶していて、やはり何かのキッカケがあると、再びその緊張状態を再現してしまいます。
こうした身体の記憶は、心の記憶と違って、なかなか言葉によるカウンセリングでは、扱いづらいものです。
身体は心で、心は身体だから
そこで、心のことに直接触れるのではなく、トラウマを受けた身体のダメージを癒すことから始めて、心の症状を治療していく方法が開発されているのです。
例えば、EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)という名前の方法もそのひとつです。
日本語では「眼球運動による脱感作と再処理法」と呼ばれ、眼球の運動を扱うことで、脳を直接的に刺激して、脳が本来持っていた力を活性化するというやり方です。
(非常にザックリお伝えしています…)
東洋医学の「心身一如」という考え方を持ち出すまでもなく、身体の感覚は、脳の働きと直結していますから、身体を動かして感じる感覚は、当然、脳、つまり心にも作用します。
ヨガも役に立ちます
トラウマを受けた身体を癒すためには、ヨガもとても役に立ちます。
トラウマの出来事を体験したことで、身体では強い緊張状態が続いていることがほとんど。
ヨガで身体をゆっくりと動かしながら緩めていくことで、過度の緊張から来る不快な症状を和らげることができます。
身体を緊張から解放することは、心を緊張から解放して癒していくことにつながります。
また、トラウマからの回復のためには、「今・ここ」の自分の感覚を取り戻すことが大切だとお伝えしましたが、ヨガは、まさに「今・ここ」の感覚を取り戻す練習になります。
というのは、ヨガでは、今動いている身体の感覚、呼吸の様子に集中していきます。
それは、「今・ここ」だけに意識を向けていくこと。
今の自分の状態をただ見つめていくことです。
それは、マインドフルネスの考え方にも通じるもので、ヨガを実践することは、現在の自分の感覚を取り戻し、現在と過去を切り離していく作業をしていることと同じです。
過去は変えられない。でも、今と未来は変えられる
「今・ここ」の自分の感覚を取り戻すことができて、過去に引きずり込まれることが無くなったら、トラウマとなった出来事と改めて向き合うことをお勧めします。
でも、残念ながら、どんなに治療やカウンセリングを受けても、トラウマの事実そのものは無くなることはありません。
けれども、心身のダメージを癒し、その当時のあなた自身と、トラウマを負ってしまった現在のあなた自身を、ちゃんと受け容れてあげることはできます。
そして過去に対する自分の気持ちを整理して、過去への考え方を変えることもできるようになります。
今、そして、これからのあなた自身は必ず変えていけます。
今のあなたを生きること
辛いのを我慢して無理に過去に向き合おうとしなくても、心身のダメージを癒し、ただただ「今・ここ」を生きていくことをお勧めします。
今を生きることを続けていると、無理矢理向き合おうとしなくても、自然に過去のことと向き合うタイミングが訪れる場合もあるからです。
わたし自身は、ヨガを練習している時に、過去に見た景色が浮かび、ふっと感情が溢れて涙が出てくるという経験を何度もしたことがあります。
そうすると、その当時のことが心のなかで、思い出となっていきました。
わたしは、ずっと両親との関係に葛藤を抱えてきました。
父親に手を挙げられた時の痛みの記憶は、30年近く経った今も消えることはありません。
それでも、わたし自身が変わり、少しずつ両親との関係も変わってきました。
今もって、全てが解決したわけではなく、関係再構築中ですが、以前よりずっと気楽に付き合えるようになりました。
この記事がわずかでもあなたのお役に立てると嬉しいです。
あなたはご存知でしょうか?
不安、うつ、トラウマ、過緊張など、こころの症状を、、身体を整えながら、身体の側から改善していくことができるということを。
「心の問題には対話によるカウンセリング」というのが一般的な常識ですし、
わたし自身、臨床心理士として、カウンセリングの効果も確かにあると認めています。
けれども、カウンセリングでは、うまく話すことができないと、なかなか先に進めない、ということも事実です。
いくら相手がカウンセラーだったとしても、そんなにすぐに打ち解けて、自分のありのままを話すことなんて難しいですよね。
信頼できるかどうかも分からないし、不安ですよね?
カウンセラーと信頼できる関係を築くまでには、本当に長い時間がかかります。
そのため、カウンセリングで変化を感じる前に、続けられなくなってしまう場合が多いのです。
「カウンセリングがうまくいかない」と困っている方がきっとたくさんいらっしゃるはず。本当はそういう方こそ、心のケアが必要なのに。
そこで、「無理に誰かに話さなくても、心の問題を解決していける方法があればいいな」と、わたしはずっと探していました。
そこで、たどり着いたのが、身体を整え、身体の感覚に向き合うことで、心を整え、心の問題を解決していこうとする方法でのカウンセリングだったのです。
これから自分らしく生きるために、こころ、からだをケアしたい。
でも、カウンセリングでは難しい。
そんなあなたにこそ、かぜのねのカウンセリングをお勧めします。
ぜひ、一度試してみてくださいませんか。