「私は初心者だから、やさしいポーズを教えて下さい。」
「基本のポーズはいろいろやっていますから、上級のポーズを教えてください。」
こうしたお声を伺うことも多いものです。
ところが残念ながら、私のレッスンでは、こうしたご希望にはお応えできないかもしれません。
というのは、そもそも、「ポーズは完成することがない」と私は考えているからです。
なぜなら、絶え間なく変化する私たち自身の身体や心を見つめていくことがヨガだからです。
私たちの身体の状況は毎日毎日変化します。
そんな私たちを取り巻く外界の状況、例えば天候、気温、湿度、季節なども全て変化して、全く同じ日はありません。
私たち人間は、自律神経の作用があるために、外界の変化に応じて、身体の内部も変化します。
そのため全く同じ身体の日はないのです。
その、毎日変りゆく身体の感覚を確かめていくことこそが、ヨガなんです。
だから、いわゆる「ポーズのレベル」とか「ポーズの完成形」というものは、本当はあり得ないものだと思うのです。
そして、練習を重ねるごとに、身体の機能や感覚が高まっていきます。
すると、同じポーズを練習しても、もちろん外見上も変化しますし、自分の内部におけるそのポーズの味わいはより一層変化していきます。
つまり、どんどんポーズは変化していくのです。
もっと単純にその日の体調によっても変化しますし、当然年齢を重ねるほどにも変化します。
なので、ヨガでレベルが上がるというのは、難しいポーズができるようになるということではなく、自分の内面に向かう内観のレベルが深まることです。
ヨガでは単純に「基本のポーズが出来るようになったから、上級のポーズを練習すればよい」ということはあり得ません。
ましてや、剣道や柔道のように段位があるわけでもありません。
ただ、ヨガには、一般的に難易度が高いとされているものから、やさしいとされているポーズまで、それはそれは、さまざまなポーズがあります。
一見同じように見えるポーズもありますが、実際やってみると、手足の位置が少し違うだけで、また別の筋肉を使うことが実感できるかと思います。
このように、身体の細かい部分の筋肉や関節の動きのなかで、呼吸がどのように変化していくのか?
そして呼吸の変化によって、身体への意識や気分がどのように変化していくのか?
その身体の状態や呼吸の様子、そして心で起こってくることを、できる限り微細に、集中観察し続けられるようになることが、ヨガの練習です。
より微細に、より丁寧に、より集中して、自分自身に心身丸ごと向き合っていける。
それが、ヨガが上達したということです。
ヨガのポーズはツールに過ぎない
ヨガのポーズというのは、ご自分の身体の感覚、呼吸の状態や心の様子など、自分自身の内面に向き合っていくための、ただのツールと言えます。
ですので、私は本当のところ、ヨガのポーズにいわゆる難易度というのは無いと思っています。
難しいポーズができたからといって、自慢する必要もなければ、易しいポーズしかできないからといって、落ち込む必要もありません。
ヨガとは、いつもいつも、「今の自分の身体と心でやれることをやる」のがベストなんです。
ヨガの練習を深めたいのであれば、あなたの内側へと一歩深めた練習をしていくことをお勧めします。
今まで以上に、自分の呼吸の状態を丁寧に見つめる。
自分だけの感覚に意識を集中させる。
一瞬一瞬、今、自分がどういう状態なのか、観察し続ける。
そこを大切になさってください。
「今・ここ」の自分にしかできないポーズ
生まれつき関節の柔軟性が高い方、小さい頃から体操など経験されてきた方は、案外簡単に難易度の高いポーズができる場合があります。
しかし、そこが落とし穴になることも。
かえって、ご自分の関節の柔らかさに頼ってポーズを取ってしまい、必要な筋力が育たなかったり、柔らかすぎる関節が変形してしまったり、という事態も起きてきます。
身体の柔軟性に関わらず、どんな方でも、使うべき筋肉をしっかり使い、向けるべきところにちゃんと意識を向けられるように練習することが、ヨガの恩恵を最大限に受けるために大切なんです。
私たち一人ひとり、身体も心もみんな違います。骨格、筋力、体力、関節の柔軟性、手足の長さ、左右差、etc.
誰一人同じ人はいません。
あなたのからだは、あなただけに与えられた貴重なものです。
たとえ身体が思うように動かなかったとしても、自分の感覚にしっかり向き合うことができれば、ヨガにはいつも必ず新しい発見があります。
そして、ヨガを学ぶ上で、いつも心に留めておいていただきたいことがあります。
それは、今行っているポーズは、今この瞬間の、あなたにしかできないポーズだということ。
そういう、「今・ここ」のあなたの感覚は、他の誰のものでもない、今のあなたのなかにしかない、あなただけのものです。
あなたがちゃんと向き合ってあげなければいけません。
あなた以外の他の誰かが、あなたに代わって「今・ここ」にしかないあなたの感覚に向き合うことはできないのですから。
どうぞ、ヨガをやる時には「自分が今何を感じているのか?」ということ。
今まさに自分がしている呼吸、変化していく身体の動き。
そこに意識を向けてやってみてください。
私たち人間は、ポーズの出来栄えなど、目に見える結果だけに惑わされやすいもの。
けれども、目に見えない身体の内面で起きていることこそ、自分らしく生きていくためには、目に見えるもの以上に大切なものです。
自分だけに向き合う、自分だけの感覚は、何よりも自分らしく生きるための内的な気付きを与えてくれます。
ヨガは、単なるエクササイズでもなければ、リラックス法でもありません。
そのどちらの要素も確かに含んでいますが、もっと奥深い、幅広いもの。
人間として生きる知恵、指針を教えてくれるものです。